
イベントを作り上げる専門家であるイベント会社は、企業や自治体、団体といったクライアントから依頼を受けて、イベントの企画立案から準備、当日の運営、実施後のフォローまでを総合的に請け負います。
イベント会社が担う業務のなかでも企画業務は、目的に応じたイベントを構想し、成功させるための計画を立てる重要な工程です。これを担うのは主に「イベントプランナー」と呼ばれる職種で、イベントのターゲットや方向性の設定、会場や演出の選定、予算管理など、さまざまな業務を行います。
本記事では、イベント企画の仕事とはなにか、具体的な仕事内容や進め方、企画の際に押さえておくべきポイントを詳しく解説します。
イベント企画の仕事内容
まずは、イベント企画の仕事内容について見ていきましょう。イベントの規模や内容によって多少順番が前後することもありますが、基本の流れとして参考にしてください。
なお、イベントの規模が大きい場合は、それぞれの工程に担当者をアサインし、同時進行するケースもあります。
1. 企画の方向性を定める
まずは、「何のために実施するのか(目的)」と、「誰に向けて実施するのか(ターゲット)」を明確にしたうえで、クライアントの意向やターゲット層の興味関心に応じて、イベントの特徴やコンセプトを定めます。
以下のように、目的やターゲットによって企画の方向性は大きく異なるため、後の工程で軸をブレさせないためにも、最初に決めておくことが重要です。
目的・ターゲット | 企画の一例 |
【地域活性化】
|
|
【新商品のプロモーション】
|
|
【企業のCSR】
|
|
仕事におけるポイント
イベントの成功には、ターゲットにとって魅力的なコンセプトと企画内容が求められます。アイデアを生み出すために、競合イベントの分析や市場調査を行い、過去の事例やトレンドを把握することが重要です。企画にオリジナリティを持たせつつ、クライアントの要望に沿って実現可能なアイデアを出すことがポイントです。
2. 予算の大枠を設定する
細かい予算の内訳は後で調整できるものの、予算の上限を決めておかないと無駄なコストが発生しやすくなります。そのため、企画の方向性をもとに、あらかじめ大まかな予算を設定しておきます。イベントの規模や内容によって必要な支出は異なりますが、会場費、人件費、広告費、演出・装飾費、運営に関わる諸経費など、さまざまな費用が発生します。また、チケット販売やスポンサーなどによる収益が予想される場合は、支出とあわせて設定しておきます。
仕事におけるポイント
企画段階では予算を抑えたプランを立てても、準備が進むにつれて追加費用が発生することが少なくありません。予算オーバーを防ぐためにも、初期段階では余裕を持った予算計画を立てておき、適宜調整しながら管理することがポイントです。
また、クライアントの実現したいイベント内容に対して予算オーバーが懸念される場合は、できるだけクライアントの要望に応えつつ、納得できるような理由を提示して合意形成を図ることも求められます。
3. 日時と会場候補を選定する
会場が確保できなければ、具体的な準備が進められません。また、人気の会場はすぐ埋まってしまう恐れがあるため、早い段階で会場候補をいくつか用意しておきましょう。
自由に日程を調整できるイベントの場合は、ターゲット層が参加しやすい日程であることはもちろん、可能であれば類似する他のイベントと重複しない日時を選定することで集客しやすくなります。ただし、クライアントによっては決められた日程で対応しなければならないケースもあります。
会場選びでは、参加人数に合わせた規模の会場を絞り込み、企画内容が実現できる設備があるか、アクセスが良好かなどを確認しつつ、予算内に収まるように候補を選定します。会場の規模や立地によって費用が大幅に変動するため、早い段階で相見積もりを取ることが大切です。
仕事におけるポイント
屋外イベントの場合は、雨天時の対応策を準備しておくこともポイントです。雨天時に利用できる予備の屋内スペースを確保する場合や、ステージイベントを屋内に移す準備など、柔軟な対応をあらかじめ考えておき、関係者と調整しておきましょう。
4. イベントの全体像を企画書にまとめる
イベントの目的やターゲット、予算が決まったら、企画の内容を整理し、イベントの全体像を関係者と共有するための企画書を作成します。企画書には、イベントの概要、開催目的、ターゲット層、会場の候補、スケジュール、必要な設備、予算計画などを記載します。
以下は企画書の一例です。
【企画書】 | ||
イベント概要 | ||
イベント名 | 「○○城ミステリーラリー ~封印された秘宝を探せ!~」 | |
開催日時 | 202X年〇月〇日(〇) 10:00~17:00(予定) | |
開催場所 | 〇〇城跡およびその周辺 | |
参加対象 | 小学生以上推奨(子どもから大人まで楽しめる) | |
参加方法 | 事前申込・当日参加可能(個人・グループでの参加可) | |
イベント内容 | 城跡を巡りながら、歴史にまつわる謎を解く体験型イベント。参加者は、城に隠された「秘宝」を探すため、城跡や周辺の観光スポットを巡りながら、手がかりを集め、最終目的地へと進む。
| |
開催目的 | ||
| ||
ターゲット層 | ||
| ||
会場 | ||
| ||
スケジュール | ||
| ||
必要設備 | ||
| ||
予算計画(概算) | ||
項目 | 予算 | |
謎解き制作費(デザイン・印刷) | 200,000円 | |
広報費(ポスター・SNS広告) | 150,000円 | |
設営費(看板・装飾) | 100,000円 | |
人件費(スタッフ・ボランティア) | 300,000円 | |
会場使用料 | 100,000円 | |
その他(予備費) | 50,000円 |
仕事におけるポイント
企画書は社内の意思決定にも関わるため、関係者が納得できるように詳細な情報を盛り込みつつ、簡潔で伝わりやすい構成にすることがポイントです。また、イベントの魅力や期待される成果を分かりやすく伝えられるとよいでしょう。
5. 協力企業・スポンサーを選定する
イベントの規模や目的によっては、企業の協力やスポンサーが必要になります。スポンサーをつける場合は、企画書をもとに、ターゲット層やイベントの趣旨に合った企業をリストアップし、スポンサー契約の提案や交渉を行います。
スポンサーがつくことで予算計画に余裕が生まれるだけでなく、企業の商品・サービスとイベントを組み合わせることで相乗効果を生むことも可能です。
仕事におけるポイント
交渉の際は、「広告枠の提供」や「ブランドの認知向上」など、相手企業にとってのメリットを明確にして、交渉を進めることがポイントです。
6. プログラムや演出を決定する
イベントの大枠が固まったら、具体的なプログラムや演出の内容を決定します。たとえば、ステージ型のイベントであれば、出演者や進行スケジュール(時間配分)、演出を決定します。
また、来場者の動線を考慮し、受付の配置や休憩スペースの設計も考えるほか、演出に必要な機材の準備やスタッフの手配なども進めておきます。
仕事におけるポイント
演出が魅力的でも、運営の負担が大きすぎると当日の進行がスムーズにいかない可能性があります。スタッフの配置や機材の切り替え時間など、実際の運営フローを想定しながら無理のないプログラムを作成することがポイントになります。
7. リスクマネジメントを行う
イベントは多くの人が集まる場であり、天候の急変、事故、体調不良者の発生、感染症のリスクなど、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。そのため、あらかじめリスクを想定し、対策を講じることが重要です。
たとえば、悪天候時の対応や中止基準を明確にしておくことや、来場者の安全を確保するために警備会社への依頼や救護体制を整えておくことも必要です。ほかにも、感染症対策として、会場の衛生管理や入場制限の方針を決めるなど、イベントの規模や状況に応じた対策を検討しておくと安心です。
仕事におけるポイント
あらゆるリスクに対策を講じるのは現実的ではないため、発生頻度や影響度を考慮し、優先度の高いものからリスク管理をしていくことがポイントです。なかでも、参加者や出演者の安全に直結するリスク(事故やケガなど)には最優先で対策を整える必要があります。
8. 集客の戦略を立てる
魅力的なイベントを企画しても、参加者が集まらなければ成功とはいえません。できるだけ多くのターゲット層にイベントの存在を認知してもらい、「参加したい」と思ってもらうために、宣伝・告知方法を検討します。SNSを活用した情報発信、企業やメディアとのタイアップ、チラシやポスターの配布、Web広告の運用など、さまざまな方法の中から、ターゲットに合った方法を選びます。
仕事におけるポイント
告知は一度発信すれば終わりではなく、開催日までのスケジュールに沿って段階的に展開すると効果的です。最初にイベントの概要のみを発表し、その後、出演者やプログラムの詳細を随時公開するなど、ターゲットの関心を途切れさせないよう工夫することがポイントです。
9. 開催に向けた準備・制作を進める
イベント開催当日に向けて、本格的に準備を進めていきます。会場の設営や機材の搬入、パンフレットや配布資料の制作、来場者向けのグッズやノベルティの準備など、さまざまな業務が発生するため、抜け漏れが無いように管理していく必要があります。
また、当日のスムーズな運営のために、スタッフの配置や役割分担を決め、リハーサルを実施します。リハーサルで判明した細かい問題や想定されるリスクに対応しておきます。
仕事におけるポイント
イベント準備は長期間にわたるため、スケジュール管理が重要です。各タスクに締切を設定し、担当者を明確にすることで、進捗を管理しやすくなります。タスク管理ツールや進捗確認の定例会議を活用し、遅れが生じた場合の対応策もあらかじめ考えておくと安心です。
10. 当日の流れを整理し、運営マニュアルを作成する
イベント当日を円滑に進行するために、運営マニュアルを作成します。これには、各スタッフの役割分担や動線、進行スケジュール、トラブル時の対応策などを具体的に記載し、全体の流れを整理したものを記載します。音楽イベントなど、イベントの種類によっては、「秒」単位の詳細スケジュールを作成する場合もあります。また、緊急時の連絡手順や避難経路の明記など、安全管理の観点からも「緊急対応マニュアル」を作成しておくと安心です。
仕事におけるポイント
多くの関係者が関わるイベントでは、誰が見ても分かりやすいマニュアルであることが重要です。異なる役割のスタッフが必要な情報をすぐに確認できる構成にするとともに、紙媒体だけでなく、スマートフォンやタブレットで閲覧できるようにしておくと、当日のスムーズな情報共有に役立ちます。
11. 【イベント開催後】アフターフォローと効果測定
イベント終了後は、成果を振り返り、次回の改善につなげることが大切です。来場者アンケートを実施し、満足度や改善点のフィードバックを収集するほか、SNSでの反応やメディアの取り上げ方を分析し、集客や認知度向上の効果を測定することもあります。
企業やスポンサーに協力してもらった場合は、イベントの実績やフィードバックを共有し、今後の関係強化につなげます。イベントで集めたデータをもとに、次回の企画ではより良いイベントを実施できるよう社内でノウハウを蓄積することが重要です。
仕事におけるポイント
イベント後に必要な情報が手に入るように「どのデータを、どの方法で収集するか」をあらかじめ決めておきます(例:来場者の動線分析のために、会場内の混雑状況を撮影・記録する など)。
イベントを企画する際のポイント
イベントを成功させるために、企画のポイントを紹介します。
イベントタイトルで独自性を打ち出す
数多くのイベントが開催されるなかで集客するには、差別化を図るために「行ってみたい」と思える魅力的なタイトルを打ち出すことが重要です。イベントタイトルは最初に目に入る情報のため、ターゲットの心を掴むために以下のポイントを押さえてみましょう。
- 「ターゲット」×「参加のメリット」を明確にする
(例:U25限定!0円で学べるスタートアップ経営セミナー) - 「数字」を入れて目を引く
(例:60分の頭脳戦!○○城下町で消えた秘宝を探せ) - 「季節感のある言葉」×「体験」でわくわく感を出す
(例:歩いて巡る!◯◯地区の紅葉&グルメスタンプラリー)
オンライン・オフラインそれぞれの強みを活かす
近年、オンラインイベントが普及し、開催形式の選択肢が広がっています。実際にその場所を訪れるオフラインイベントは直接的な交流や体験価値の高さが魅力ですが、参加者の移動や会場のキャパシティに制約があります。その点、オンラインイベントは場所を選ばず多くの人にリーチできますが、没入感や一体感を高めるために工夫が必要です。
両者のメリット・デメリットを考慮しつつ、イベントの目的に合わせた開催形式を考えましょう。
企画の軸を明確にし、内容を詰め込みすぎない
イベントの成功には、目的とターゲットを明確にすることが重要です。集客のために幅広い層にアピールしようとすると、軸がぶれやすくなり、かえって多くの人にとって興味が持ちづらい企画になってしまう可能性もあります。ターゲットを絞り、メッセージや体験が最大限に伝わるような企画にすることが大切です。
季節感やトレンドを取り入れ、話題性を高める
イベントの開催時期や社会的なトレンドを意識すると、ターゲットの関心を引きやすくなります。たとえば、春は「新生活」、夏は「フェス」や「アウトドア」、秋は「食」や「読書」、冬は「イルミネーション」など、季節に合った企画を考えると集客に役立ちます。また、SNSで話題になっているテーマを反映させることで、トレンド力から集客力を強化することにもつながります。
まとめ
イベント企画は、クライアントのニーズやアイデアを形にするだけでなく、実現可能な計画へと落とし込み、当日に向けて多くの人と協力しながら進めていく仕事です。目的やターゲットに合った企画を練り、集客やリスク管理まで含めた準備によって、イベントの成功につながるでしょう。
今回お伝えした通り、イベント企画と一口に言っても、その仕事内容は多岐にわたり、関わる人も多いものです。イベント業界に興味がある方は、本記事で紹介した内容を参考に、イベントに関係する仕事について調べてみてはいかがでしょうか。
関連記事
毎月文化祭・運動会が複数あるようなもの。
